なかよくけんか

漫画と漫画じゃない

オレンジに返り咲く

昨日、近所のドラッグストアに行って、生理用品コーナーを見ていた。なんでもいいから一個サッと取って、すぐレジに持って行って、ちゃっちゃとお会計を済ますつもりだった。でも、思わぬ先客に目がとまった。スーツの上に黒いトレンチを羽織った、50代くらいの典型的な「お父さん」という風貌の社会人が、生理用品コーナーの前でうろうろしていたからだ。


彼は耳に携帯電話をあて、妻らしき人物と電話しているようだった。「わかんない」「わかんない」「わかんない」と仕切りに言っているのが聞こえた。たぶん奥さんに、買い物ついでにナプキンかっといて家に一個もなくなっちゃったんだよね何でもいーからさ的なおつかいを頼まれて承諾したものの、いざそのコーナーに立ち寄ってみたら、思わぬ充実したラインナップに、どれを買うのが正解なのかわからなくなって本人に電話して聞いてる、とかだとおもう。


わたしがそのコーナーに近づくと、その人の「わかんない」の声がいっそう焦りを帯びて聞こえた。50のおっさんがこんな、生理用品コーナーにひとり立ち尽くしていて、隣に事情をしらない若い女のお客さんがいて、変態と思われやしないだろうか、気まずいことこの上ないから、とにかく早くなにを買えばいいのか教えてくれよという動揺を孕んだ「わかんない」を、妻に投げかけているのだろう。






なんだかその、電話片手にアタフタして、何を買えばいいのかわからず電話ごしに奥さんにすがるおっさんの姿をみていて私は思った。ああこういうひと、好きだなあって。わたしは男性の、こういう一面が好きなのだ。








つまり、いじらしいというか、抜けているというか、しょうもなくて、恥ずかしいところを見ると、なんだかキュンとする。こういう人と結婚して、ずっと支えたいと思ってしまう。





ああなんか恋愛、恋愛がしたい。
見知らぬ人とはいえ、ぐっとくる異性の行動を目の当たりにすると、ふと、そうおもった。


そういえば一昨日はバレンタインだった。今年はなにもチョコのたぐい、つくってない。しかも、なにもつくってないことに、どうとも思っていない。こう、「やばい今年なんもつくってない女としてまじで終わってるわガハハ」くらい思ってれば、反省が見えるしまだ可愛げがあるものの、なんというか、現時点で何も感じない。感慨もわかない。焦りもない。無だ。だって、いま好きな人いないし。





去年だったか。友達に、まほのオーラがオレンジ色に変わった、と突然言われた。いわく、今まで黒とか灰とか、ダークカラーで構成されていたオーラが、急にオレンジになったらしい。そのとき私は恋愛をしている真っ最中だったから、きっとオーラも明るくなったんだろう。そのとき私は自分史上最強に、思考回路が華やかで、世界のすべてがハッピーだったんだし。でも、じゃあ、友達にききたい。いま、2016年2月16日現在のわたしのオーラはどんなぐあいなのか。また黒にもどってしまったのか。幸せの象徴のオレンジはもう跡形もなく消えて、いまわたしの周りには再びくろく淀んだ空気がただよっているのか。あああ、いま自分の色がどうなのか、とっても気になる。




恋愛をしてるときだけオレンジに輝いて、してないときは常に黒だとしたら、人間としてどうなんだろう。もしそうだとしたら、なんか、客観的にみて、「おまえ恋愛以外に楽しいことないの?」なんて言われそうだ。やばい、しょうもない。そんなことはやだ。みとめたくない。



というか、「おまえ恋愛以外に楽しいことないの?」という問いかけって、なかなか刺さる。刺さりがちな21歳。お年頃である。漫画を読んだり服をみたり家族と過ごしたり夜布団の中で気になることを悶々と考えたりする時間はたのしいし好きだし、バイトもとてもやりがいがある。他の人ほど多くはないけど、何かを達成する喜びを味わったこともある。受験とか勉強でもそうだし、ピアノなんかの習い事でもそうだ。楽しい瞬間はいくつもあった。でも今のところ、恋愛の喜びにまさる幸せをわたしは体感したことがない。だから私は人生経験が浅く、深みのない人間なんだということは重々承知している。世界にはもっと、価値のある事柄があって、生きていることを噛み締める瞬間が他にあって、大切なことがまだまだあるのだろう。ああでもわたしにはいま、欠けている。まだよくわからない。


それを自覚するたび思うのは、やっぱり仕事だ。仕事がしたい。仕事がたのしくて、やりがいがあれば、わたしのオーラは恋愛という仕方をもってしなくてもオレンジに返り咲くだろう。自分の頭をフル稼動させてアイデアを出して、創造をする仕事がしたい。それが生き甲斐になって、恋愛抜きに華やかな人間になれたら、それはちゃんと、カッコいい。
だからわたしが今年すべきことは、恋愛にいそしむことではなくて、就活を着実に成功させることだ。そうして、あたらしく、自分のオーラをオレンジにする活路を見出すのだ。就活よ、わたしの幼い恋愛史上主義をずっ潰してほしい。